台湾の経済部知的財産局の担当課長が、テレビや報道の取材対応で釈明に追われる事態が発生しました。
発端は大手週刊誌『壹週刊』が掲載した「癌を治す浄水器に特許証、知的財産局のずさんな裏書」というセンセーショナルなスクープ記事でした。台中の業者が1台20万台湾元もする浄水器を「痛風や糖尿病を治し、癌細胞を消滅させる」と宣伝し、知的財産局が発行した「癌治療用浄水器」などの特許証を見せて重症患者に売りつけていた事件です。
メディアやコメンテーターは「知財局がずさんな審査で詐欺に加担した」と行政を一斉に糾弾しました。しかし、元特許エンジニアおよび生体医工学エンジニアの視点からこの報道を見ると、詐欺業者への憤りと同時に、台湾メディアの法学リテラシーの絶望的な欠如に強い危機感を抱かざるを得ません。
一、特許の基礎知識:実用新案は「方式審査」であり、知財局は薬務当局ではない
報道の最大の誤謬は、「特許審査」と「医薬品・医療機器の有効性認可」を完全に混同している点にあります。
台湾の特許法において、実用新案(新型専利)は審査の迅速化と国際標準(日独と同様)への適合のため、2004年以降全面的に「方式審査制(Formal Examination)」を採用しています。
方式審査とは何か?
特許審査官は出願書類の形式的適法性のみを審査します:
- 書類に不備はないか?
- 物品の形状、構造、組み合わせに関するものか?
- 最低限の産業上の利用可能性があるか?
- 公序良俗に反していないか?
書式が整い手数料が納付されていれば、知的財産局は法律上、特許証を交付しなければなりません。方式審査において過去文献との進歩性比較や、実験室に機械を持ち込んでの通水試験などは一切行われません。
知財局は臨床試験機関ではない
水や機器が「癌を治す」ことを証明するには、数年の歳月と巨額の資金を投じ、細胞実験、動物実験、そして厳格な二重盲検臨床試験を経る必要があります。これは衛生福利部食品薬物管理署(TFDA)の所管です。特許審査官に癌治療の真偽を検証させようとするのは、車検場の検査員に車の衝突安全性能の医学的保証を求めるような暴論です。
二、特許権は「排他権」であり、「実施許可」ではない
「知財局が詐欺を裏書した」という批判は、特許権の法的性質を根本から見誤っています:
特許証は、国家がその製品の品質や商業的価値、医療効果を保証する文書では決してありません。
法理上、特許権は「排他的な消極的権利(Right to Exclude)」と定義されます。他人が無断でその技術を製造・販売・使用することを差し止める独占権であって、「その技術を合法的に世の中で実施できる権利(Right to Practice)」を意味するものではありません。
新型の自動小銃や精巧な偽札印刷機を開発して特許を取得したとしても、街中で銃を乱射したり偽札を使えば当然逮捕されます。同様に、特許証を持っていようと、未承認の浄水器を「癌が治る」と偽って販売すれば、直ちに医療法、薬事法、公平取引法違反、そして刑法の詐欺罪に問われます。摘発すべきは衛生警察や検察であり、法律通りに形式審査を行った知財局の公務員を吊るし上げるのは筋違いです。
三、行政の落ち度とメディアの魔女狩り
知的財産局に反省すべき点が全くなかったわけではありません。唯一の過失は「考案の名称(タイトル)」に対する審査が受動的すぎた点です。「逆浸透膜多段水ろ過装置」といった客観的技術名称に補正を命じるべきであり、「癌を治す」という誇大な文言をそのまま証書に印刷させた点は配慮を欠いていました。
しかし、名称審査の行政的瑕疵と「詐欺への加担」は次元が異なります。メディアは専門家に10分取材すれば理解できる法理を無視し、大衆の官僚叩き感情を煽るためにセンセーショナリズムに走りました。
結語:「特許取得」の言葉に騙されないために
消費者が教訓とすべきは、「特許取得=政府のお墨付き」という思い込みを捨てることです:
- 実用新案は書類さえ出せば誰でも取れる:技術的価値や効果の科学的証明を意味しない。
- 機器や食品の医療効果標榜はすべて詐欺:特許証を見せられても、絶対に信用してはならない。
- 病気は正規の医療機関へ:怪しげな「奇跡の水」に頼って治療の黄金期を逃してはならない。
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