13年間に及ぶ国際共同研究により、遺伝暗号(DNA塩基配列)自体の変化とは無関係に、DNAの折りたたみ構造や発現制御の仕組み(エピジェネティクス、Epigenetics)の破綻が生物の老化を直接駆動することが初めて明らかになりました。

この研究では、エピジェネティック情報の喪失が実験用マウスの老化を引き起こすこと、そしてその情報の完全性を修復・復元することで老化の兆候を逆転(若返り)させられることが示されました。さらに研究チームは、エピゲノムを操作することで、個体の老化時計を早めることも巻き戻すことも可能であることを突き止めました。

本研究成果は、2023年1月12日付の米科学誌『Cell』に「Loss of epigenetic information as a cause of mammalian aging」の論文名で発表されました。

本論文のシニアオーサーであり、ハーバード大学医学大学院ブラバトニック研究所の遺伝学教授、およびポール・F・グレン老化生物学研究センター共同所長を務めるデヴィッド・シンクレア(David Sinclair)氏は次のように述べています。 「私たちは本研究が、エピジェネティック情報の変化こそが哺乳類の老化を推進する主要な原因であることを世界で初めて実証した成果であると考えています」

エピジェネティック分子は遺伝子活性のスイッチとして機能し、神経細胞や筋肉細胞など、個々の細胞がどのような形態や役割を果たすかを決定づけています。同一個体内のすべての細胞は基本的にまったく同一のDNAを持っていますが、特定の遺伝子のオン/オフが精密に制御されることで分化が成り立っています。エピジェネティクスはいわば細胞の「OS(オペレーティングシステム)」のような存在であり、まったく同じ遺伝情報というハードウェアを多彩な機能へと使い分けることを可能にしています。

研究チームは、実験用マウスのDNA鎖切断の頻度を人為的に高めることで、この制御の乱れが老化をもたらすのかを検証しました。切断が起きると、エピジェネティック制御因子は通常の遺伝子発現調節の任務を一時中断し、損傷部位のDNA修復を誘導するために現場へ駆けつけます。しかし研究者たちが発見したのは、修復作業を終えた後、因子たちが「元の配置に戻らない」(注意を奪われたままになる)という異常現象でした。その結果、エピゲノムの秩序が崩壊して本来の制御情報が失われ、染色質(クロマチン)が異常なパターンで凝集・弛緩を繰り返すようになります。これはエピジェネティック機能不全の典型的な兆候であり、実際にマウスの身体に急速な老化症状が現れたことからも証明されました。

チームの一連の実験は、DNA配列自体の変異(突然変異)だけが老化の唯一・主要な原因ではないことを明白に証明しました。むしろ、染色体を形成するDNAとタンパク質の複合体(クロマチン)の化学的・構造的劣化が、遺伝暗号そのものを改変することなく老化を進行させているのです。

さらに決定的なステップとして、研究者たちは人為的に老化を誘導したマウスに対して3つの転写因子(山中因子の一部)を導入する「カクテル遺伝子治療」を実施しました。すると、誘発されていたエピジェネティックな異常変化がリセットされ、実験用マウスの組織や臓器の機能は劇的に回復し、若々しい状態へと巻き戻されたのです。

論文の共同筆頭著者であるヤン・ジェヒョン(Jae-Hyun Yang)氏は次のように述べています。 「私たちは今回の発見が、人類が老化を自らコントロールする能力を獲得するための決定的な転換点になると確信しています。老化プロセスの根本的な捉え方を変えるだけでなく、加齢に伴う様々な難治性疾患に対する治療アプローチを一新する可能性を秘めています」

元記事:『Loss of Epigenetic Information Can Drive Aging, Restoration Can Reverse It』

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タグDNA老化エピジェネティクス科学研究若返り